1-752氏



「話が違う」

 傍らに横たわったリカルドの言葉に、僕は黙って天井を見上げる。安いモーテルの一室、今はまだNYに向かう道中。とっくに眠ったと思っていたのに、まだ起きていたのか。それとも今やっと、意識を取り戻したのか。全身をしっとりと濡らしていた汗は乾いて、シーツは心地良く身体を覆っている。リカルドの身体はすっぽり包まれていて、僕の身体には少し窮屈な、そういうシーツ。ベッドは二つ、乱れているのは一つ。両腕を頭の下に敷いて枕代わりにしながら、僕はリカルドの言葉に何も返さない。

「話が、違うよ。クリス」

 少し鼻声なのは涙の余韻。
 抗議するような拗ねたような努めて搾り出す低い声で、リカルドはベッドの端を向いている。僕に背中を向けて、その小さく細い背中は丸められて、縮こまっている。いつもよりちっぽけに見えて、つついたら弾け飛びそうにすら見えた。なんて、頼りない。なんて、か弱い。
 薄っすら浮かぶ肩甲骨の影に焦点を合わせながら、僕は笑う。
 にぃやりとイルカの歯で、吸血鬼のように笑う。

「そりゃそうだよリカルド。友達は友達に命令なんかしないもんだし、聞くもんじゃない。お願いならまだしも、ね」
「――判った、って、言ったくせに」
「そりゃそうさ。嘘ぐらい吐くからね」
「さいあく」
「そう?」
「そう」
「君の命令の方こそ、僕には最悪の部類だと思えたりもするものなんだけれどね」

 きっと本人は気付いていないだろう、肩甲骨の薄い影の中に浮かぶ赤いキスマーク。
 それを見詰めて、僕はシニカルにけらけらと喉を鳴らした。
 リカルドはぎゅっと肩を抱いて、そっぽを向き続けた。



 世間知らずなご主人様はさらりとNYに行く、なんてのたまってくれたけれど、シカゴからNYまでって言うのは鉄道でも一日はすっぽり掛かる距離だ。自家用車が特別ノロマと言うわけではないけれど、最短距離を最高速度で走ることを許されている鉄道とは比べることがそもそも間違っている。乗車における快適性だとか燃費だとか――そう煩く文句を言う性質ではないリカルドだからこそ、気をつけてあげなきゃならないのはきっと自分の方だろう。地図から見積もった日程は、およそ三日と言ったところ。車内泊は避ける方向、食事はきっちり摂る方向。
 ガスメーターを確認すると、窓から差した西日がガラスに反射して見えづらかった。木陰が差した瞬間に盗み見るようにすると、まだ余裕はある。助手席のリカルドは黙って窓を流れる景色を眺めたまま、僕は運転に集中したまま。何も会話がないのはそんなに苦痛じゃない。気兼ねなくひたすら一緒に時間を過ごしていられるのは、僕達が友達だからだろう。気まずさなんて、ちっとも感じない。

 ラミアのみんなと行動していた時のことを思い出すと、これはちょっと不思議な気分でもあった。それなりに長々と生きてきた中で一年や二年前なんて昔とはとても言えないはずなのに、ひどくひどく遠い過去を手繰り寄せるような気分で僕はそれを思う。生まれて死ななかった、その一点の理由で一緒に過ごしていた仲間達。チーやアデル、シックルに詩人の旦那、レイルにフランク。みんな一緒に行動するなんてことは無かったけれど、ヒューイの指示でどこかに向かうときは、それこそサーカスの一団めいて賑やかだった。
 詩人の旦那は戯言繰言修飾を繰り返し、シックルはそれに肉体言語で突っ込みを入れる。レイルとフランクはいつも他愛のないことを他愛なさそうに、だけど愛しく楽しげに語り合う。僕も僕で朗らかに歌うと、チーに睨まれたり小突かれたり、アデルにおろおろと制されたり。レイルと一緒に歌いだしたり、やっぱりシックルに蹴られたり。
 そうして空間を言葉と行動で埋めていないと不安だったのかもしれない。何かを考えたりする余裕があると余計な事に気付いてしまいそうで恐ろしかったのかもしれない。何せ僕達は頭が狂っているし、身体も狂っている。それを俯瞰してしまう隙を自分自身に対して作るのは、ただ自己崩壊への道になるだけだった。と思う。今は。なんとなくだけど。

 では今その隙を作ることにやぶさかでないのは何故だろう?
 その時と違う環境要素は溢れている。むしろ共通点なんて僕と言う存在しかありえない。銃剣もお気に入りのコートも仲間達も指示系統も失われ、僕はちっちゃな子供と二人で自家用車の中。しかもその子は僕の雇い主で、友達だ。僕は雇われのボディガードで、友達だ。
 そう、友達。
 仲間ではない友達と一緒にいるからなのかもしれない、とは、やっぱり戯言めいているかな。

「何笑ってるの。クリス」
「ん?」
「窓。映ってたよ、変な顔」

 外を向いたまま、コツコツとガラス窓を突くリカルドの言葉に、僕はヒドイなぁなんて言ってみる。肩を竦めて息を吐いて、やれやれやれ。こう遠慮ない突っ込みをしてくれる気安さは、リカルドがコドモ特有の怖いもの知らずな性質だからと言うわけではない。単純に、リカルドは、僕を恐れないだけだ。物怖じすることなく対等に。思ったことは歯に衣着せず。何と言っても、友達だから。
 遠慮なんていらない関係。制御なんていらない関係。それはちょっと、仲間とは違うベクトルの気安さ。
 一方的に友人関係を押し付けた相手に、それを受け取ってもらえたことは少ない。だけどこの子は一方的なそれを、ストンっと受け入れてくれた。だから僕も敬意を表し、気安く接する。気兼ねなく接する。

「いやあ、友達は良いもんだなぁって」
「それは皮肉? 三日も車に缶詰だよ、しかも運転はクリス任せ。それって、楽しい?」
「うん。それなりに楽しい」
「友達として所感を伝えると、それは変わった人だと思う」
「友達が一人いれば、大概のことはそれほど苦痛にはならないもんだよ」
「そ……」

 ふ、っとリカルドは息を吐く。
 それからフロントガラスに向き直って、座りなおす。

「次の角曲がったら、モーテルがあるよ。そこを逃すと、今夜はベッド取れないみたい」
「わお、そりゃ危なかった。イザコザ絡まなくても便利なんだねぇ、シャムの情報収集能力って。前々からもっと生活に根ざした利用もしてれば良かったよ。時刻表とかいらなくなったろうに」
「それはそれで、別のシャムの生活が困るんじゃない?」
「そりゃそうか。部屋取っておいて、とか言うのもナシ?」
「便利屋扱いしないで」
「はいはい。じゃ、チェックインしてくるよ」

 自家用自動車の普及が進んでいるとは言え、シカゴから離れて田舎めいて来ると駐車スペースを設けた宿泊施設いわゆるモーテルと言うのはそうない。だからこそ寝床の確保は大切だ――車を停めて、僕は受付に向かう。適当な偽名と人数、宿泊日数、料金相談、存外すんなり行ったのはシャムの所為もあるんだろうか? 自分で言うのもなんだけれど、こんな不審人物相手なのに。現金の残りを確認してから車に戻る。助手席のドアを開けて恭しく一礼すると、何やってるの、と突っ込まれた。だって座ったポーズのまま微動だにしてなかったじゃん。ふんぞり返ってたじゃん。ノリだよノリ。
 荷物を持って、貰った鍵に書かれた番号を確認する。すぐ近くのドアがそれだった。コテージ風の建物はドールハウスのようで可愛いが、果たして過ごしやすさはどんなものか。リカルドが僕から鍵を奪い、ドアを開ける。薄暗い室内に明かりが灯されると、そこそこ過ごしやすそうなツインの部屋だった。少なくとも一日の疲れを取るには、充分な部屋だ。壁際に荷物を置くと、リカルドがベッドに腰を下ろす。自動車よりもスプリングの効いたそれが心地良いのか、少し表情が緩んだ。やっぱりコドモには、長時間の旅はしんどいだろう。色々トラブルもあった後だし――

 そういや、保護者も死んだ後だったっけ。
 あんまり好いてはいなかったみたいだけど、それなりにやっぱりダメージは受けてるものなのかな。
 両親に続いて、祖父の死。
 どちらも、サツガイ。
 僕にはそういうのがどういう気持ちなのか、ちょっとよく判らないけど。

「出来るだけ距離稼ぎたいから、明日は早く出るよ。だから今日は早めに休んじゃおう。僕は食料調達してくるから、リカルドはその間にシャワーでも浴びてて」
「食料って、夕飯? それともお茶請け?」
「信用ないなぁ、流石に真っ当にスタミナ付くもの仕入れるよ。許してくれるならそりゃお茶請けもティーセットも茶葉も買って来たいところだけどさ。甘いものは疲れを癒すからね、精神的にも肉体的にも。ここもお湯ぐらい沸かせるだろうし」
「じゃあ、両方」
「え」

 バスルームに向かう背中が、淡々と言う。

「寝る前にお茶するぐらいの余裕は、あっても良いしね。じゃあ、行ってらっしゃい」

 言ってリカルドはドアを閉じる。
 冗談のつもりだったんだけど、これはどうしたものなのか。
 って言うか、今見えた横顔、ちょっとだけ。

「……泣いてた?」



 フロントにティーセットを貸して貰いに行くと、受付の男は気前良く買出しまで引き受けてくれた。僕のナリが目立つことを気遣ってくれたのだろう、やっぱシャムなんだろうなあと、僕は受け取った紙袋を持って部屋に戻る。別にこの格好を自分ではそんなに気にしていない、慣れているけれど、無防備な移動中に変な連中に見つけられるのは得策ではないので甘えておいた。ネブラだとかヒューイだとか、暫くは平気だと思った矢先にドッカンと来るのは常套だし。かちゃかちゃと陶器を鳴らしてテーブルに置く。リカルドはまだシャワーを浴びているらしい、水音がざわざわと鳴っている。

 ベッドに腰を下ろして天井を見上げた。
 家族が死ぬという感覚を理解するためにはまず家族がいるのが大前提だ。大概の人間にはそれがあるのだろうが、僕には、僕達にはそういったのがない。細胞の提供者ぐらいはいるのだろうが、それは家族と呼ぶにはあんまりにもあんまりだ。同じ頃に製作されたホムンクルスもいくらかいた。相哀れみあう同病、同胞、兄弟めいた彼ら。それもいまや残されているのは、十人にもならない数。
 親代わりと言うのに研究者達はエゴイスティックな人でなしだったし、研究の指揮を執っていたヒューイだってこっちのことは実験対象でしかなかっただろう。死んだら諦めのつくもの。みんなみんなそういうもの。ラミアのみんなでさえ、僕にとってはきっとそう。
 だから僕はリカルドの気持ちを理解できない。悲しむことがよく判らない。いや、そもそも、悲しいってどんな気持ちなんだろう?
 死にかけた時すらも、感じたのは悲しみとはちょっと違う気がした。
 そもそもそもそも、リカルドは悲しんで泣いていたのかな。
 ぼっすりとベッドに背中を倒れ込ませると、さかさまになった視界の奥にぶかぶかのバスローブ姿のリカルドが立っている。いつの間に出たんだろう、濡れ髪にタオルを被せて赤い目元をそれとなく隠しながら、彼女は腕組みをして僕を眺めている。にっこり歯を見せて笑いながら、僕は尋ねる。

「ねぇリカルド、君ってば悲しくて泣いてたの?」

 リカルドはすこぅし目を細めて、仏頂面とぶっきらぼうな口調を僕に向ける。

「別に。そうでもないと思うけど」
「でも泣いてたんだよね。やっぱ身内が亡くなるとショックなもの? 君、あんまりお祖父さんのことは好きじゃなかったみたいなのに。マフィア自体もそうだけど、両親が死んだのもそのせいだったしさ」
「マフィアとは切り離して考えてるよ。オレにとって家族とマフィアは別にイクォールで結ばれるものじゃない。両親と爺ちゃんとが殺された、それ自体は」
「悲しい?」
「……やっぱり、そうでもないと思う」
「でも泣くの?」
「やっぱり、そうみたい」
「あはははは! 不便だね、そういうの、実に人間っぽくて素敵じゃないか。憧れちゃうね、情が深くて感情が揺れちゃうなんてさ」
「バカにされてるみたいだから、笑うのは止めて」

 仏頂面を少し顰めたリカルドの言葉に従い、僕は息を吐く。そうしてから腹筋のバネで身体を起こすと、隣のベッドにリカルドが腰を下ろした。こっちには背中が向いていて、ぶかぶかのバスローブの浮いた襟が短い髪の裾を隠している。頼りなさそうな後姿、俯き加減の項は白い。一滴インクを落としたらそのまま全てが真っ黒に染められそうな、儚く危うい白だ。
 その白が口をきく。

「少なくとも、両親が死んだときほど悲しいとは思ってない」
「おや。お祖父さんに対してはわりと薄情?」
「かもね。でもクリスも車で言っただろ」
「うん?」
「『友達が一人いれば、大概のことはそれほど苦痛にはならない』」
「……あれ、僕ってば今すごい直球の告白受けた? 僕がいたからすっごく悲しくならなくて済んだとか言われた?」
「精々自惚れなよ。オレもそれなりに自惚れたから」

 くふ、小さく笑い声を漏らしてリカルドは肩を竦める。なんとなく天井を見上げ直すけれど、別に何の変化も無い。日焼けで少し黄ばんだ無地の壁紙とシンプルな電灯が僕らを見下ろしているだけだ。背中合わせに違うベッドに腰掛ける僕らが、電灯からはどう見えているのだろう。友達同士にしてはちょっと距離があるような、でもバスローブ姿は逆に近いような。神の視点はいつ如何なるときも公平ではあるがその公平こそが無残の象徴、希望の入り込む余地のない完成された世界を眺める角度――傾けてはならない万華鏡ほど寂寥感を誘うものがあろうか、なんて、詩人の旦那なら言いそうかも。
 カーテンで覆われた窓からはすでに光も入ってこない。夕暮れは通り過ぎて外は夜に呑まれている。リカルドは髪をタオルで拭いていた。僕はなんとなく手持ち無沙汰になって、ガス台でお湯を沸かす。シャワーは寝る前に浴びよう、取り敢えずは夕飯の準備でもしよう。紙袋を漁ると、パンとハムなんかの具材、缶詰の魚なんかが入っていた。ふむ、サンドイッチぐらいなら簡単に作れるか。借りたナイフや缶切りを使う音に、リカルドがテーブルの方へと視線を向けてくる。

「何作るの?」
「サンドイッチ。好き嫌いはあっても聞かないよ、食べられる時に食べなきゃね」
「あっても言わないよ。手伝うこと、ある?」
「そんなに手間かけないから平気、良いからまず服着なよ。隙間から色々見えてる」
「寝るだけだからいらない」
「何か予期せぬ襲撃があったら?」
「クリスが半裸のオレを抱えて逃げる」
「女の子って自覚を持ちなよ、ちょっとぐらい……」
「あると不便そうだし、暫くはいらないよ」

 お湯の沸く音に、火を止める。
 リカルドが男の子として育てられた理由は、訊ねたことがない。理由はいくらでも予想できたからだ。女の子と言う弱者の立場は誘拐その他のトラブルに巻き込まれやすいからだとか、跡取りになる男が生まれるまでの場つなぎだとか、将来的に本気でファミリーを継がせるはずだったとか。プラチドの旦那は自分の血筋がファミリーを守ることを望んでいたけれど、子供夫婦、つまりリカルドの両親は殺された。となると直系はリカルドだけだ。場繋ぎから本命になったと言う線もあるだろう。ともあれリカルド自身がそれを煩わしく思っていた様子もなかったから、放っておいただけだ。
 今はもうそんな演技を続ける理由も無い。それでも少女としているのは、煩わしいのだろうか?
 個人的には女の子っぽくひらひらした服を着せたりするのも、それはそれで一興なんだけどなあ。仏頂面さえ直せば、やっぱり可愛い女の子なんだし。金色の柔らかい髪、大きめの青い瞳、肌は白くて滑らかで、指先だってほっそりとして繊細そうなんだから。

 ああ、でも、そんな女の子じゃ銃やナイフの世界に馴染めないか。
 真っ白は真っ黒に、奪われて犯されて危うく儚く汚される。
 ――やべぇ想像したらちょっと興奮したかも。最低だ俺って。
 もちろんそうならないためのボディガードが、自分なんだけど。

 紅茶を入れたら他愛ない会話をしたりしなかったりの中で食事をして、お代わりを注いだらデザート代わりに甘いものを摘む。買ってきてもらったクッキーはパサパサしてる割りにべったり甘くて安っぽいけれど、スコーンとジャムはそれなりに美味しかった。そう言えばこうやって一緒に食事をするのは珍しいことだな、と思う。リカルドのディナーはいつもプラチドの旦那と一緒で、ボディガード風情の僕は同席を許されなかったし。
 これからはいつもこうなのかなあと思うと、貧相な食卓も少しは愛おしい。口唇に付いたジャムを舌で舐め取る姿だとか、口を大きく開けて頬張る様子だとか。子供らしさが垣間見えるのは、可愛らしいと思う。友達の新たな一面の発見ににこにこ笑うと、気持ち悪いよ、と釘を刺された。ひどいや。

 ジャムの垂れる指先、ぺろりと肌を舐める仕種。紅茶の熱さに小さく眉を顰める様子を見ていると、ひどく変な気分になった。
 本当にこんな子がルッソ・ファミリーを再興させようと思ってるのか、わざわざマフィアに戻りたがっているのか、なんてことじゃなく――もう少し、根本的なこと。
 女の子って、どう言うことだっけ。
 隠したり恥らったりとか全然しないから忘れてた、いや、意識してなかったんだけど、でも冷静に考えたらこの子って言うのは女の子で、リカルドじゃなくてリディアで、両親を亡くした子供で。僕の友達で、命の恩人で、それで、少女で。
 どうやら自分の意思で『リカルド』を名乗っている様子だけど――。
 女の子であることを、全力で否定しているわけでもない。
 この子は何を考えてるんだろう。
 家族を失う気持ちだとか悲しみだとかそれ以前に、そもそも最初から他人の考えてることや感じてることなんて理解出来るわけもないんだなあ、友達でも。
 そうなると友達がいれば平気ってのは、あくまで主観的に自分が安心するってだけで、その主観が相互で噛み合ってる僕達の関係ってのは、中々運が良くて理想的な友人関係なのかも。
 でも、本当にそれは友達ってだけなのかな?
 異性として意識されてないこともない、と思うのは、自惚れじゃあないはず。
 ――なんてね。

「んじゃ、僕もシャワー浴びてくるよ。リカルドも髪乾いてるなら、もう休んでて」
「ああ、だったらその前に良いかな。クリス」
「うん?」

 テーブルから立った姿勢のまま、僕はリカルドを見下ろした。

「セックスして欲しいんだけど」

 え、何だって?



「NYも大小マフィアやカモッラがいるらしいから、新しいファミリーを興そうとしたらリスクそれなりに付くみたいだよ。何年か前にルノラータが来たときはかなり勝手をしたらしいから、シカゴ拠点のルッソがマンハッタンで再興しようとしたら、よく思わない連中もいるだろうって。ある程度の覚悟はあった方が良いってさ――オレはそういう覚悟の付け方がよく判らないから、とりあえず無くせるものを無くすことで、精々自分に発破掛けることにしようと思って。肉体的にも精神的にも一番与えられそうな苦痛って、多分そういうのだろうから」

 淡々とした言葉はいつものように投げやりで、他人事のようだった。身体が緊張したり震えたりしているわけでもなく、さっきまで眺めていたのと同じように、紅茶のカップに指を引っ掛け口唇を寄せている。何も変化しない。この女の子は今すごいことを言っている。腹ごなしにセックスしようとか、とてもこの歳の女の子の言葉じゃないのに、何も意識していない。
 言ってることはまあ正しいだろう。禁酒法も終わってただでさえマフィア達は経営が立ち行かなくなっているところだ。しのぎを削る相手が増えるのは共倒れの危険が増すだけ、危害を加えようとする連中は、そりゃいるだろう――シャム達を上手く立ち回らせればいくらでも避けられるだろうけど、リカルドは性格からしてそうはしない。あくまで繋がっているだけの共生関係。
 真っ向から立ち向かう。良いじゃないか。覚悟をしておく。大いに結構。でも、だからってそんな。

「……僕って一応、君のボディガードなんだけど」
「知ってる」

 淡々と彼女は頷く。

「だから傷付けられない、って言うなら、別途で命令するよ。オレのこと、抱いて」
「……リカルド、」
「なるだけ乱暴なのが良い。その方が耐性も付くだろうし」

 ひらりとバスローブを肌蹴られて、思わず歯を食い縛った。
 幼い身体は、それでも完全に子供と言うわけじゃない。ほんのりと膨らみかけている胸、薄い腹、立ち上がった脚、部分部分に柔らかな丸みを帯びている。二次性徴を迎えている身体は華奢でも、欲情出来ないほどじゃない。よく知っている相手だからこそ、それは加速する。白い身体。危うい儚さ。見上げてくる眼は無感情に、だけど逸らされることはない。
 ぱさりと音を立てて、ローブが床に落とされる。差し出された小さな足が床をキシリと鳴らした。思わず後じさりしようとすると、腕を取られる。手を繋ぐのは汗をかくから苦手だと、いつも彼女は僕の腕にその指を引っ掛ける。いつものように引き寄せられて、手の甲に胸を押し当てられた。
 柔らかい。指の辺りに小さなしこりがあるのが判る。
 喉で唾を飲むと、スラックスの中が窮屈になっているのが判った。
 ああ、もう、知るか。

「判ったよ」
「ッ、わ」

 身体を掬い上げるように腕に引っ掛けて、リカルドをベッドに放る。下着しか身に着けていない女の子に覆い被さると、あー自分ってば本格的に犯罪者だなー、なんて自覚した。人間生物として二次性徴に至っている受胎可能な個体に欲情するのはおかしいことじゃなくても、倫理的なことは別問題だ。自分自身の倫理観とのせめぎ合い。ただしその抑圧が自分を煽る側面を否定できないのも、また事実で。
 小さな肩を押さえ付けて、噛み付くようなキスを腹部に落とす。子供体温が口唇から伝わってきて、柔らかさと滑らかさに背筋がぞくりとした。ちろちろと嘗め回しながら臍を弄ってみると、反射的にかきゅっと膝が閉じられる。それを割って脚の間に身体を入り込ますと、リカルドは表情を緊張させた。上目遣いに見上げると、視線は逸らされる。恥ずかしいのか怖いのか。だったら最初から、言わなきゃ良い。こんな化け物に犯されようなんて、頭がおかしいや。理由はある、筋は通っている、だからこそ、おかしい。
 僕としては、普通の女の子になった彼女に吸血鬼の友達として見世物にさせるのも、それはそれで楽しいかもと思っていたのにね。

「一応訊いておくけれど」

 小さな胸の頂にある淡い粒をきゅぅっと抓りながら、僕はリカルドを見下ろす。大きな青い目に映り込んでいる自分は限りなく化け物に近い。きざぎざの歯を見せて笑う、にっこりと笑う。大きな手は彼女の髪に指を引っ掛け、頬を擽って。

「リカルドは自分の意思で、ファミリーを再興させたいわけ? シャムが何かやらかそうとしてて、その手駒になってとか下地作りの為にとかだったら、そう言ってよね。別にどうするわけでもないけど、正しく認識はしておきたいからさ。手懐けるための手段とかだったら、こーゆーのされなくても傍にいるし」
「これはオレの意思だよ。ルッソの再興も、こうやって押し倒されてるのも、オレの、リカルド・ルッソの、……リディア・ルッソの意思。だから覚悟が必要なぐらい、危うい」
「そ。じゃあ、それで納得したよ」
「ん」
「乱暴に?」
「うん。恨まないから」

 可愛いことを言って、可愛い顔をして、でも全然可愛くないんだよ、こんなことは。もっと自分を大事にしてよ、君は僕の大事な友達なんだよ? 笑う自分はきっと苦笑、なんてひどい命令だろう。ちゅ、ちゅっと音を立てて乳首に吸い付くと、横になった所為でほとんど平らな胸が反る。どきどきしてる心音が強く聞こえた。心臓の振動が身体の表面まで伝わっている。シーツを掴む手はぎゅっと握り締められて、込められた力の強さに間接は真っ白だ。そりゃそうだよ。当たり前だよ。きっと指先は緊張で冷たくなっている。甘いもの食べたりしてたのも、これを緩めるためだったのかな? 本当は怖いから、少しでも解したくて。不器用だね。本当不器用だ。
 背中に手を差し入れると、華奢な面積に逡巡しそうになった。表に出さない為のポーカーフェイス、下着に指を引っ掛けて少し下ろす。指を添えた個所にはまだアンダーも生え揃っていない。流石にこんな子供をレイプする奴ってマフィアでもいないと思う。いや、どうだろう。世の中色んな嗜好があるのかな? 今度シャムにでも、訊いてみようか。
 まるっきり子供の個所に指を滑らせる。処女でこんな状況で濡れているはずもない。軽く胸を噛んで、僕は彼女の身体を起こさせた。腰に座らせるような形にして、腕は背中に回させる。おしりの方から指を辿らせると、開かれた筋から粘膜が露出して、ねっとりとした熱を感じた。
 リカルドは細い背筋をぞくりと大きく震わせる。

 ほんの指先を浅く含ませる隙間もないぐらいに、そこは狭かった。入り口をなぞって弄ってみるけれど緊張は抜けなくて、リカルドは押し黙りながら俯いている。胸をいじってみたりしても、そもそもそこが性感帯として発達していないらしかった。このまま押し入れる、なんてのは、物理的にも不可能だし精神的にも無理だ。そういうのはちょっと、出来ない。
 小さな身体をぎゅっと抱いてみる。立っている時より身長差は縮まるけれど、それにしても扱い辛いぐらいに彼女は小さい。腕の中にすっぽり納めると、仕事とか関係なく、社会的には守られるべき弱者の立場なんだなあと本能で理解できた。こんな子供は、守られるべきだ。普通なら、きっとそうされるべきだ。それが自然のことだ。
 でも僕は彼女を傷付けなきゃいけないらしい。彼女自身の命令により。
 ああ、あー、苛々、する。ジレンマ、矛盾、パラドックス。まったくまったく、狂ってる。

 むかむかしたから、キスしてやった。

「っ!?」
「ん? ん――」

 予想外に取り乱した顔をして、リカルドは僕の背中に爪を立てる。
 引かれそうな顎を、後頭部から押さえ込んで捻じ伏せてやった。スコーンに付けたジャムや紅茶の味がまだ残っている口内、彼女は表情を崩して目を見開き、いやいや首を振ろうとする。真っ赤になった顔、目元には涙が浮かんで、ついにはぎゅぅっと閉じられた。逃げる舌を口内で追い掛けるたび、身体がびくびくと電流を流されたように跳ねる。指をもう一度性器に沿わすと、少し湿り気を帯びていた。唾液をたっぷり絡めた舌を差し出すと、鼻の奥からくぐもった声すら漏れる。
 傷付けないようにやわやわと甘噛みをして、舌の根元を擽って、歯列を濃厚に舐めてやる。竦んだ肩がぞくぞくと細かく震えていた。唾液を呑めずにけふけふ噎せるのに口唇を離してやると、すぐに顔を伏せる。その耳は真っ赤だ。肩のラインが一層細くなったのに、今まで随分気張っていたのが判る。胸を張って仁王立ちするように耐えていたのだろう。それが、今は、崩れ去って。
 にんまり笑う。歯を見せて笑う。ぷっくり立ち上がった胸の粒、白い身体、抱き締めて掻き抱いてもう一度キスをする。

 呼吸を整えられなかったリカルドは、驚いて無防備そうな表情を見せた。潤んだ眼を見開く様子が面白くて、今度はもっと深くに舌を捻じ込んでみる。押し出そうとしてくる舌はぬるぬると滑って上手く行かない、歯で噛み付こうとする気配はあっても、実行には移せないらしい。舌を噛んで人が死ぬことは確かにあるけど、よっぽど上手く本気でやらなきゃ無理なのに。いや、だから、か?
 とろりと唾液を喉に流し込むと、細い喉がこくこく鳴る。頬の裏側まで満遍なく舐めて、もう一度下腹部に当てていた指を内側に含ませた。

「っん、んぷっぁあ!」

 にゅるりと滑り込む勢いに、リカルドが腕を突っ張らせる。
 勿論僕は、それを捻じ伏せる。

 指一本含んだだけなのに、リカルドは眼に見えて狼狽していた。奥歯が噛み合わないのか顎が揺れて、眉も寄せられている。初めての異物感が恐ろしいのか、身体中ががくがくと震えていた。緊張にまた身体が硬くなっているのを宥めるように、僕はその鼻先や首筋にキスを落とす。
 鎖骨や胸に軽く噛み付くと、砕けるように身体が崩れて体重が任された。小さな背中を抱きながら、内側で指をかしかしと引っ掻かせてみる。ねっとりとした感触が指全体を覆って、外へと流れていく。奥の辺りできゅうきゅうと締まっている気配、ぞくぞく震える身体。
 判りやすい性感帯をいじってやった方が良いのかな。外の指をまだ包皮に覆われているクリトリスに伸ばし、内側の指をその裏側に持っていく。
 リカルドは慌てたように、顔を上げる。

「クリス、やだ止めてッ」
「やだよ」
「やッいやぁあっ!」

 きゅうっと内から外から挟むようにすると、内側が激しく収縮した。
 くくくくくっと笑って、僕は呆然とした彼女の顔を覗き込む。あられもない甲高い声を上げたリカルドは、喉を見せて激しい呼吸を重ねている。
 いつもの無愛想な表情は崩れて、大きな青い目からはぽろぽろ涙が零れている。白い頬は赤く上気して、淡い薄紅色の口唇は苦しそうに喘ぎながら唾液を零してすらいた。その細い流れが首を伝って胸にまで落ちている。全身が火照って、うっすら汗が浮いていた。子供なのに、その姿は、女だった。僕の知らないリカルドだ、と思う。一年一緒に過ごしてきて、初めて目にするリカルドだ。
 くったりとした身体が、僕の肩に頭を寄せる。寄り掛かりながらも震える腰は身体を支えようと踏ん張っていた。なのに力を込めると僕の指を締め付けて存在を認識し、怯えから引いてしまう。

 そうか、女の子ってこういう生き物なんだ。リカルドは、こういう人間なんだ。
 だから覚悟が必要なのかな。僕にはよく判らない。人間じゃないからなのか、男だからなのか、この子よりオトナだからなのか。
 確実なのは、僕は充分以上、彼女に欲情させられてしまっているということ。
 スラックスの中がきつい、今にも彼女の命令通り乱暴に襲い掛かってしまいたい。
 腰の奥がジンジン痺れて、理性は今にも限界を突破しそうだ。

「ば……か」
「ん? 何がバカ?」
「やめて、って、言った……のに」

 切れ切れの息で睨んでくる眼球を、べろりと舐める。リカルドは驚いて、身体を縮こまらせる。

「嫌がることをするのが強姦ってもんじゃない?」

 指を増やして一気に奥まで突き上げてみると、軽くイッたあとだからかすんなりとそれは飲み込まれた。ぐちゅぐちゅとピストンめいた動きを手首ですれば、リカルドはヒッと息を呑んで頭を振る。身体を崩さないように縋ってくる様子がいじらしくて可愛らしかった。頭を抱いていた手を離して、僕は自分の襟元を緩める。ついでにベルトを外してスラックスも寛げた。ジッパーの下りる音に、リカルドがの肩がびくりとする。
 取り出したものを脚の付け根に押し当てると、短い悲鳴が漏らされた。
 くつくつくつ、僕は喉を鳴らして笑ってしまう。

「そう怖がらないでよ、こんなの身体の一部だよ? 指とか舌とかと同じ、リカルドにはないけどね。ああでも、聞いた話だと女の子のこれってのは、一応ペニスと同じものらしいよ?」
「ひ、ゃっ押し付け、ないでッ」
「でもおかしいよね、リカルドは知ってると思うけど、ホムンクルス製造って女の人を介さないで人間を作るための技術でもあるはずなのに、僕らにはこういう機能があるんだよ。勃起だとか射精だとか、どう考えても性交用だよね。快楽を得るための手段なのかな? 精神状態の均衡を得るための、簡易なストレス発散――」
「やぁ、クリス、クリスぅ!」

 滴り落ちる愛液ですっかり濡れそぼったクリトリスに肉棒を押し当てられて、リカルドは鼻に掛かった甘い声を上げた。ぐりぐりと先端を押し付けると、込み上げた先走りでつるりと滑る。押し当てては滑らせる動きを繰り返すと、追い立てられるもどかしさと羞恥にか、リカルドは喉を鳴らしてしゃくりあげた。
 長い睫毛に重く溜まる涙はきらきらしている。綺麗だ、と感じる。可愛い、と思う。同時に、苛立ちも込み上げる。色々なものがない交ぜになったこの感情もまた、人間らしくて良いもの――なのかな? よく判らないや。どうでも良いや。

「っん、んう、やんっ、ぁ、あぁぁあんんっ!」

 甘い声は普段の押し殺したような低い声と全然違う。音を立てて指を暴れさせ、堪らずに三本目まで奥に捻じ込んだ。ぐるりと掻き混ぜるようにしながら、突き当りを指の先でこつりこつりと刺激する。子供だからなのか、浅いし狭い。ここに捻じ込んだりしたら、彼女は壊れてしまうんじゃないだろうか? 壊れないための行為、覚悟のための行為。耐えられるのかな? 本当に、耐えられるのかな?
 指を一気に引き抜いて、乱れたシーツに肩を押し付け転がした。脚を抱え上げて晒させたそこは、ピンク色の粘膜がうっすら開いている。おしりまで垂れる愛液は、だけど全然足りないだろう。肩口に手を付いて、肉棒の先端を割れ目に押し当てる。リカルドは息を呑んで、きゅっと自分の口唇を噛む。
 背中をぐぅっと丸めて、僕はその上から自分の口唇も無理矢理に重ねた。
 そうして腰を、思いっきりに押し進める。

「ひっ、!? あ……ぁ、ゃあぁッ!!」
「き……つ、ぅ」

 先端を含ませただけでもそこはぎちぎちに締まって、雁首を押し出そうとしてきた。
 足指までガチガチに行き渡った緊張が内側まで根を張って、入り込めないみたいだ。息を詰めて眼を見開くリカルドの額に何度もキスをしながら、僕はゆっくりと腰を引き押し付ける小刻みな運動を重ねる。浮いた腰ががくがくと揺れて、シーツにぽたぽたと愛液の落ちる音がした。小さな胸は心臓の拍動の大きさにどくどく波打ち、張り裂けそうに見える。噛み切られた口唇から、細い血液の筋がつぅっと落ちた。それを舐め取る。ああもう、自分が本当の吸血鬼みたい。
 大きく口を開けて、僕の呼吸も荒い。彼女の肌に自分の汗が落ちて、伝っていく。かぷかぷ頬や額に軽く歯を立てるとリカルドは小さく身体を捩る、その隙に少しずつ深く身体を進ませた。込み上げてくる愛液を掻き出すようにしながらゆっくり、ゆっくりと押し進める。張り出した部分が全て含まれたところで一旦腰を止めると、長い息がリカルドから零れた。緊張の緩む一瞬、逆に息を詰めた僕が、思いっきりその腰を引き寄せる。
 ぷつりと性器から伝わってきた感触は、処女膜が裂ける音。
 奥まで一気に犯された彼女は呆然として、目を丸くした。
 一瞬後で、その顔をくしゃくしゃにする。

「ひ、っ……ぁ、いた……ぁ、ぁ……!」
「ん。こういう時は出来るだけ力抜いて息吐いた方が、痛くなかっただろうね」
「言うの、遅い、よ……ふ……う、キツ、痛い」
「あはは。僕もきっつい」

 ひゅぅひゅぅ喉を鳴らしながら僕を見上げるリカルドは、それでも痛みと緊張の峠は越えたのだろう、目元にいくらかいつもの力が戻っていた。前髪をくしゃりと掴むように撫でると、首を振って避けようとする。身体を捩ると内側が擦れるのか、眉を寄せて顔を顰めた。ゆっくり腰を引くと、圧迫感が抜けたことにか表情を緩める。
 ナカはひどくキツい。締め上げられて痛いぐらいで、快楽とは少し遠い。お互いにそうなのだろう、リカルドは呼吸を整えることに集中しているし、僕は彼女が落ち着くのを黙って待っている。とくとくと脈打つような刺激、奥からとろとろ送り出されてくる愛液が先端からねっとりと性器を包んでくる感覚に集中していると、疼きがまた騒ぎ出すのが判った。段々心地良くなっていく挿入感に、無意識で腰が小刻みに揺れる。

「ぁ」

 リカルドはその刺激に、甘く鳴いた。

「ねぇーリカルド」
「なに、クリス。あんまり動かさないで……変な感じになる」
「僕のコレが求愛行動だって言ったら、君どうする?」
「は?」

 訝しげな表情を見下ろして、にっこり笑う。
 ぐるりと身体をひっくり返させて、獣のように後ろから覆い被さった。
 内部を反り返ったものに抉られて、リカルドの腰ががくんと蕩ける。

「きゃ……ひぁ、やぁぁあぁ!? く、クリス、やめ、クリスっ!」

 腰を掴んで引き寄せ、腕だけで身体を支えさせるようにしながら、僕は彼女の奥を突き上げた。
 強く掴んだら砕けそうなぐらい細い腰の奥へ、凶器めいた性器を突き入れる。根元まで飲み込みきれずに最奥に当たってしまう狭さと浅さに興奮して、首の後ろ辺りがじりじりと疼いた。白っぽく濁った愛液が肉棒に絡んでいるのがよく見えて、薄い肉襞が動きに合わせて巻き込まれる様子も判る。真っ赤に充血した粘膜に、破瓜の血がほんのりと広がっていた。律動から一瞬遅れての締め付けが与えるままならなさにすら、ひどく興奮させられる。
 突然の注挿に怯えながらも僕を振り向くリカルドの、肩甲骨の辺りに噛み付いた。身体をぐんっと曲げて奥をぐりぐりと抉るようにしながら、近付けて吸い付く。背中を反らせて声を上げて、リカルドはげほげほと咳き込んだ。うわ言のように呼ぶのは僕の名前。クリス、クリス。名前を教えた最初の時からずっと、彼女は気安く僕をそう呼ぶ。

 信頼されて信用されているとは思っていたけれど、それはあくまで友達としてのことで――ボディガードとしての僕ってのは、どうなんだろうねぇ?
 確かに雇われてからこれまで、トラブルめいたことに巻き込まれることは無かったから、腕を発揮することもなかった。今回もあの青いツナギのオニイサンやシックルを相手にしていたりで、リカルドにはあんま格好良いところを見せることは無かったっけ。
 でも、初めて僕を見た時、彼女は僕がファミリーの人間を殺すところを見ていたはずで、ついでにシャムの知識から、僕の戦闘能力も知っているはずで?
 それでも僕ってのは頼りないものなのかな、リカルド。ねぇ、友達。
 僕はマンハッタンのマフィア達から君一人守ることも出来ず、君をこんな風につらい目に合わせるかもしれない、そういう情けないボディガードなのかな?
 それにはちょっと異議を唱えたいよ。
 この僕のプライドをかけて、異議を唱えたいよ。
 君を守るって思う、僕の覚悟の行方は一体どうなっちゃうんだってね!

「っや……ぁ、あ、やぁ、クリス、クリス、ぅうっふ」
「あー、声が甘ぁくなってきたねぇ。ちょっと気持ち良くなってきたかい? 慣れて緩んで締め付けて、僕はかなり気持ち良いよ。好きな子とセックスするって、結構良いもんだね。ぱくぱく入り口が開いてるの、よく見えるよ。中からぬるぬるしたのが溢れて来てるのもね。敏感になってるんでしょ? どんな感じ?」
「や、めて……やだ、やっぁ、あぁんんっ! っくふ……あ、んぁああッ」
「激しくしてるけど、気持ち良くしてるよね? クリトリス弄るとすごく可愛い声出してるしさ。ね、気持ち良い? リカルド、気持ち良いの?」
「やめ、やだぁ、そこッもう、弄らない、ぁ、ああぁぁあッ!?」
「っん、きつ。軽くイッちゃった? 何回目? 覚えてるかな、数えてるかな。これだけイッたらもう、慣れちゃったよね。気持ちよくなっちゃったよね。まだあちこち子供なのに、やーらしいなぁ」
「っひ……っく、ふ」

 弱弱しい泣き声に、僕は彼女の腕を掴んで身体を起こさせた。
 顔を隠すこともなくぼろぼろの泣き顔を晒しているリカルドを、ぎゅっと背中から抱き締める。骨ばっているようでそこそこ柔らかい身体は、腕の中にすっぽり隠してしまえた。覆って隠して包み込んで守ってしまうことは容易い。傷付けることはきっともっと容易いだろう。彼女をここまで傷付けられるのは僕だけだ。だって僕以外からは、僕が守ってしまうから。なのに、ねぇ、リカルド。
 ぎゅっと胸を掌で支えて、抱き締める。爆発しそうな心音を感じながら、かぷかぷと耳朶を噛んで舐った。浅い息を邪魔するように腰を揺らめかすと、喘ぎ声が漏らされる。膝を掬って脚を開かせて、頭に顎を乗せて無理に俯かせた。晒されているのは結合部、彼女と僕が繋がっている個所。

「リカルド。めいっぱい優しく汚してあげるからね」
「っ……ゃ。クリ、ス」
「気持ち良いって教え込んであげるよ。だからさ」
「あ、あっ、動かな……」

 腰の奥からせり上がって来るものの気配に、リカルドは半狂乱で頭を振った。子供のようにいやいやするのが可愛らしい、どきどきしている心音も小動物めいている。何度も堪えて溜めた精液が、ひどくゆっくりと尿道を上がってくる錯覚があった。呼吸が上がる。律動が止められない。びくびくと脈打ちながら膨張する肉棒を、僕は思いっきりリカルドの子宮口にぶつけてやる。ぐちぐちと肉を捏ねるような音を立てながら、こりこり硬いそこに先端をめり込ませた。
 瞬間、臨界に達した快感が一気に放出される。

「っ……ひ。やあ……いや、あ、いぃックリス、いやあ!!」
「くっん、ん――」
「やだ、ひぁあああ! こんな、ああ、やだ、いくッ来る! だめ、クリス、熱ぅう、あああ――!!」

 激しく身体を痙攣させながら暴れるリカルドを押さえ込んで、僕は無理矢理彼女の膣内に射精をする。何度も脈打ちながら飛び出していくその勢いに、リカルドは泣きじゃくって喚き散らした。そうしながら膣内はぎゅぅぎゅうと絞り上げる動きを激しくし、結合部の辺りからは愛液が飛び散っている。絶頂を迎えているのを悟られたくないのか、リカルドは必死で身体を離そうとしたけれど――そんなことは、叶わない。叶えてあげない。

「……だからね、リカルド」
「っく……んっぅ……」
「覚悟なんかさぁ――捨てちゃってよ」

 聞こえたのか聞こえなかったのか、リカルドはがくりと身体を崩して、意識を失った。



「ぶっちゃけ気持ち良かったでしょ? すごいイきっぷりだったんだよ、もぎ取られるぐらいの締め付けでさー。もう搾り出した搾り出した」
「黙ってよ」

 べしゃり、顔に投げ付けられたクッションを受け取ると、やっとこっちを向いたリカルドがベッドの上に身体を起こして僕を見下ろしていた。脚の奥がまだ痛いのか座り方はぎこちない。今日の移動は後部座席に寝かせておこう、クッションとか買って敷き詰めて。フリフリレースのカバーが良いな、お姫様みたいに気だるく埋もれさせるのも、きっと可愛いだろう。心底嫌な顔をするのが、きっと何より可愛いだろう。
 真っ赤な目元は腫れが引いていなくて、ひどい様子だ。顔もむくんで、夜鳴きした子供みたいに見える。眼に毒な白い裸にシーツを被せると、ぺぺいと振り払われた。伸びてきた指が僕の後ろ髪をむんずと掴む、顔が思いっきり引き寄せられる。ああ、そういう事されると、結構どきどきしちゃうんだけど。僕ってばこれで、純情だから。友達に信用されてないと思ったら涙ながらに求愛行動しちゃうぐらい純情だから。もっと信じて信じてーなんてさ。

「なんでああいうこと言ったり、したり、するわけ。求愛行動とか言われたら訳が判らなくなるよ、痛め付けられる練習だったのに――キスなんか、して」
「あ、やっぱりドキドキしてたんだねぇ。気持ち良くて思わず飛んじゃった?」
「クリス」
「そんな練習、しなくて良いんだよ」

 くしゃくしゃくしゃ。
 くるくるふわふわ柔らかい、彼女の髪を僕は撫でくりまわす。
 訝る顔ににっこりと歯を見せて笑いかけ、僕はリカルドの額に自分のそれをくっ付けた。

「少なくとも君が生きてる間は、僕がきっちり守るからさ。たせからしっかり信用してよ。僕ってば、君のボディガードで、友達なんだから」
「……クリスって、友達とセックスするひと?」
「じゃあ恋人になる? 介護が必要になるころまでばっちりフォローしてあげるよ、僕が生き延びられたらの話になるけど」
「即答できないことは保留にしておくよ。とりあえず、責任は取って貰うからね」
「うん?」

 腕を突っ張って顔を離して、リカルドはそっぽを向く。その頬の淡い赤味を、僕は微笑で見止める。

「覚悟、させなかった責任。しっかり、守ってよ」
「わお。素敵な殺し文句だね」
「どっちが」

 カーテンの外はもう明るい。予定ではもう発つはずの時間だけれど、今はもう少しこの女の子の表情を楽しみたい。
 旅は今日も明日も、その後はイザコザ厄介ごとが三日も四日も一年も続くのだろう。その時はこの友達と一緒だ。友達が一人いれば、大概のことはそれほど苦痛にはならない。親友だったらどうだろう? 恋人だったらどうだろう? ああ、歳の差恋愛なんて、まるで悩める人間みたいじゃないか! 素敵だ素敵だ素敵だね!
 にんまり笑う僕の視線を背中に受けていそいそ服を着ていたリカルドが、ふっと気付いたように僕を振り向く。

「シャムが、次からはもうちょっとあっさりめで、って」
「…………。リカルド、君よく平気だね、その生活」
「まあね。クリス、早くシャワー浴びてくれば」
「うん、じゃあついでに一通りへこたれるよ」
「手早くね」

 やべぇこれは地味に俺が耐えられねぇ。

終わり。






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